北海道 釧路の地酒 『福司』 若僧蔵人の醸し屋日記 - 記事一覧
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| 発行日時 | 見出し |
|---|---|
| 2025.12.17 |
酒づくりとお米、その間にあるもの
昨日は、日本酒の等級制度について書きましたが、
こうした等級制度をはじめとする「旧来の仕組み」は、 形を変えずに今も多く残っています。 私たちの身近な例でいえば、米の等級制度もそのひとつです。 米の価格は、粒の大きさや見た目のそろい方など、 いわゆる“整粒歩合”が重視されて等級が決まります。 等級が上がれば、その分価格も上がり、 酒蔵は発注した米が高等級であれば、その加算分を支払う必要があります。 一見すると、 「等級が高い=良い米なのだから高いのは当然」 そう思われるかもしれません。 ただ、この等級制度は 酒の品質そのものを評価しているものではなく、 あくまで見た目やそろい具合を基準にした制度です。 一方で、酒を造る側が重視しているのは、 米に含まれるタンパク質量や澱粉の割合です。 酒造りにとっては、 タンパク質が少なく、澱粉が多い米が望ましい。 ここに、制度上のねじれが生じています。 酒米は、できるだけ肥料を抑えて育てた方が、 結果としてタンパク質の吸収が少なくなります。 しかし農家さんの立場から見れば、 収量を確保し、粒を大きく育てるために 肥料を入れるのは自然な判断です。 そもそもこの等級制度は、 主食用米を前提として設計されたものであり、 酒米専用の制度ではありません。 そのため、酒蔵にとっては 必ずしも使いやすいとは言えない品質であっても、 等級が付けば高い価格で購入しなければならない、 という状況が生まれています。 ![]() 製造の現場では、 「等級が多少低くてもいいから、低タンパクの米が欲しい」 という声があります。 しかし等級制度がある以上、 農家さんが高い等級を目指すのは当然のことでもあります。 だからこそ、本州では 自社栽培や契約栽培に取り組む蔵も増えています。 実際には、酒造りには向いているけれど 等級が付かない米も存在するはずです。 ただ、そうした米を使うと、 たとえ中身が純米酒であっても 制度上は普通酒としてしか表記できません。 これが、今の制度の現実です。 農家さんを守るための制度は数多くあり、 その中で酒蔵が譲歩してきた部分も少なくありません。 一方で、今回の一連の動きを見て、 「これから誰と、どの方向を向いて酒を造っていくのか」 を見極める必要性も強く感じています。 同じ方向を向いて、 酒造りのことを理解しながら米を作ってくれる農家さんの米を、 これからも大切に使っていきたい。 そう思います。 実際、いつも酒のことを考えながら、 真摯に米作りに向き合ってくれている農家さんもいます。 そうした方々が、きちんと評価されるべきだと思います。 良い時も悪い時も一緒に歩んできた人たちが守られる仕組み。 その考えは、ホクレンさんにもお伝えしています。 購入する側だけが不利益を被る構造は、 やはり健全とは言えません。 いまは、多くの制度や慣習を 改めて見直す時代に入ってきていると感じます。 いつの時代に作られた仕組みを、 いつまで使い続けるのか。 小さくても声を上げること。 そして、どんな条件下でも おいしい酒を造れる技術を磨き続けること。 その両方が、これからますます重要になっていくのだと思います。 」」」」」」」」」」」」」 SNS情報 」」」」」」」」」」」」」」 ● 福司酒造 製造部(公式)Twitter: @fukutsukasa_ ● 醸し屋のInstagram : @fukutsukasa.kazuma ■五色彩雲ブランドページ URL:https://goshiki-no-kumo.com/ ■五色彩雲Noteページ URL:https://note.com/goshiki_no_kumo ![]() ■ 採用情報はコチラから 五色彩雲シリーズのお取り扱い店舗はコチラからどうぞ。 |
| 2025.12.16 |
特定名称酒が“答え”になってしまった日本酒の話
「今、流行っている日本酒」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
それは、どの時代に生き、どんな飲み方をしてきたかによって、 思い浮かぶ銘柄も人それぞれだと思います。 造り手の立場から見ると、 「売れている銘柄って、どうしてあんなにもアイテム数が多いのだろう?」 と、正直感心することがあります。 一つの銘柄でも、 ● 火入れと生で分ける ● あらばしり・中取り・責めで分ける ● 無濾過・薄濁りで分ける ● しぼりたて・秋あがりなど季節で分ける これだけで、一つのタンクから9種類もの酒が生まれます。 これは確かにテクニックではありますが、 技術というより「売り方」だと私は思っています。 こういった日本酒の不思議の1つだと 思っているのが「特定名称酒制度」です。 かつて日本酒には、特級・一級・二級という等級制度がありました。 この制度は「うまい・まずい」を決めるものではなく、 酒税を効率よく徴収するための制度だったと言われています。 戦後から1992年まで続いた制度です。 しかし時代が進むにつれ、 蔵ごとの個性や技術革新が評価されにくくなり、 「特級=吟醸酒より良い酒」という誤ったイメージが定着してしまいました。 そこで生まれたのが、現在の特定名称酒制度です。 国が「味」を決めることをやめ、 造りの事実だけを定義する。 うまい・まずいの判断は、市場と飲み手に委ねる。 そうした考え方への転換でした。 米を削り丁寧に造ったものを吟醸酒・大吟醸酒、 米だけで造ったものを純米酒、 アルコールを添加しても製法にこだわったものを本醸造酒—— 消費者に分かりやすく造りの違いを示すための制度です。 ところが、この制度も次第にねじれ始めています。 本来、特定名称は「造りの説明書」に過ぎないはずなのに、 いつの間にか序列のように扱われるようになってきました。 ■ 純米大吟醸・大吟醸酒=高級酒 ■ 本醸造酒・普通酒=安酒、手間をかけていない そんな新たな誤解が生まれています。 (極端に言ったたとえ話) しかし実際には、 吟醸酒や純米吟醸酒が、本醸造酒や普通酒より 必ずしも手間がかかっているわけではありません。 極端な話、 A社が手を抜いて造った大吟醸酒より、 B社が丹精込めて造った本醸造酒の方が、 酒として優れていることだってあります。 それでも「大吟醸」という名前がついているだけで、 高級でおいしいというイメージが先行してしまう。 そこに問題があると思っています。 本来は品質保証のための制度だったものが、 「その名前だから安心」という 思考停止の指標になってしまっている。 その結果、「純米吟醸じゃないの?」 と言われてしまい、 売れるために規定へ寄せて造る。 (うちは規定に寄せないのでお取扱いにならなかったけど) 造りのための制度が、売るための枠になってしまっているのが現実です。 しかし今は、米の確保すら思うようにいかない時代です。 本当にこの価値観が、これからも正しいのでしょうか。 醸し屋としては、 この考え方は、いずれ自分たちの首を絞めることになるのでは!? と感じています。 現にこの形ではない形で定義しようとしている蔵もあります。 だからこそ、 五色彩雲では特定名称の表記をしていません。 特定名称という枠で測れない造り方をしている酒に、 あえて書く必要はない。そう考えています。 本当の日本酒の価値とは、 ラベルに書かれた名称で決まるものではないはずです。 どんな米で、どんな環境で、どんな意図をもって造られたのか。 その積み重ねの先に、 「この酒が好きだ」「この酒を飲みたい」という気持ちが生まれる。 それが本来の日本酒との向き合い方ではないでしょうか。 特定名称は便利な指標です。 でも、それが答えになってしまった瞬間、 酒の奥行きは途端に見えなくなってしまう。 だからこそ、私たちは名前で評価される酒ではなく、 飲んだ人の記憶に残る酒を造りたい。 日本酒の在り方は、制度の中ではなく、 飲み手一人ひとりの感覚の中にある。 そう信じて、これからも酒を造っていきます。 」」」」」」」」」」」」」 SNS情報 」」」」」」」」」」」」」」 ● 福司酒造 製造部(公式)Twitter: @fukutsukasa_ ● 醸し屋のInstagram : @fukutsukasa.kazuma ■五色彩雲ブランドページ URL:https://goshiki-no-kumo.com/ ■五色彩雲Noteページ URL:https://note.com/goshiki_no_kumo ![]() ■ 採用情報はコチラから 五色彩雲シリーズのお取り扱い店舗はコチラからどうぞ。 |
| 2025.12.15 |
活性酒はどうだった?今日は大雪です。の2本でお送りします(サザエさん風)
先週末、12月発売の活性清酒「純生」が無事に発売となりました。
純生と書いて「じゅんなま」です。 (先日「じゅんせい」と読まれている方がいたので、念のため訂正しておきます。) こちらのブログでも、私の方に直接コメントをくださった方がいて、 「活性酒に出会って27年目。今年もちゃんと活性があっておいしい」と ありがたい言葉をいただきました。 ほかにも、毎年発売日に一緒に飲みに行く先輩から 「今年、辛口でおいしいね」と連絡があったり、 飲食店を経営している後輩からは 「今年、少し辛口ですよね? 僕もわかりましたよ!」と連絡が来たり。 いろいろなところから反応をいただいています。 今のところ「吹いて大変だった」という話は聞いていませんが、 活性があって抜栓に30秒ほどかかった、という報告もありました。 東京からも「今年もおいしいですね」と連絡があり、 ハイカラな濁りの活性酒というわけではありませんが、 これがこの地域の冬の文化として、 地域の方はもちろん、地域外の方にも楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています。 さて、週が明けて本日は大雪。 釧路のこの時期にしては珍しい、湿って重たい雪でした……。 朝起きて「サクッと雪かきして蔵に行こう」と思い、 スコップを雪に差し込んで持ち上げようとしたところ、 腰に予想以上の負担が……。 「これはこのスコップじゃ無理だ」と判断し、 ダンプ(雪かき用の道具)を持ち出して除雪。 朝から汗だくです。 そこから蔵に向かう途中、 雪の重みで木が折れている場所がありました。 この時間帯はまだ除雪も間に合っておらず、 蔵の前も未除雪の状態。 ![]() (下に落ちているのが枝で、車の通行の邪魔になっていたので、 道路脇によけてから出勤しました。) こういう状況でも、 「明日に仕事を回す」ということが酒造りではできません。 予定通りに蒸しを行い、仕込みを進めます。 ひと段落したら、今度は蔵の雪かき。 東京から来ている東京農業大学の学生は、 こんな大雪は初体験だったようで、 まるでアクティビティのように雪かきを楽しんでいました(笑) まだ除雪が進んでいない場所で雪だるまの作り方を教え、 製造部みんなで雪だるま作りを手伝ったり。 ![]() この雪の影響で売店などは臨時休業。 市内では停電しているところもあったようで、 ツヨシ氏からも「うちは今も停電している」と連絡がありました。 早く通常運転に戻ってほしいところですが、 今日はあちこちで車がスタック。 蔵の前の坂でも、ごみ収集車が前に進めない場面がありました。 学生も 「こんなに降っていても、チェーンは巻かないんですね!?」 と驚いた様子。 東京では雪が降ると慌ててチェーンを巻くか、 スタッドレスタイヤを買いに行くそうです(笑) そんなに気軽に買えるのか!? スタッドレスタイヤって。 活性酒の発売“前”じゃなくて、本当によかった……。 」」」」」」」」」」」」」 SNS情報 」」」」」」」」」」」」」」 ● 福司酒造 製造部(公式)Twitter: @fukutsukasa_ ● 醸し屋のInstagram : @fukutsukasa.kazuma ■五色彩雲ブランドページ URL:https://goshiki-no-kumo.com/ ■五色彩雲Noteページ URL:https://note.com/goshiki_no_kumo ![]() ■ 採用情報はコチラから 五色彩雲シリーズのお取り扱い店舗はコチラからどうぞ。 |
| 2025.12.12 |
活性酒の着地と、次の一歩
活性酒の発売日を迎えました。
発売日には、これまでは檀家回りをしていたのですが、 近年はちょうど海底力の麹づくりと重なり、 泊まり込みになることが多く、 発売日を蔵で過ごすことが増えています。 今年の発売日も蔵で迎えることになりました。 単純に手間だけで言えば、 実はこの活性酒が一番大変かもしれません。 というのも、工程がとても複雑で、 特に「ざるで濾す」という作業があります。 濁りの部分は、機械ではなく、 ざるを使って手作業で濾しているため、 どうしても時間がかかってしまいます。 さらに難しいのが、 発売日に合わせて仕込み計画を立てているため、 スケジュールを遅らせることができないという点です。 今回は予定よりも1日スケジュールが押してしまいました。 1日ならまだしも、 ここで数日ずれ込むと発売日に間に合わない…… そんな状況にもなりかねません。 着地地点までの道筋が見えるまでは、 実は結構ソワソワしています。 この日程合わせは、昔は本当に大変でした。 米の出来にも左右されますし、 初期の頃は味にもばらつきが大きかったように思います。 今は、米の癖をある程度つかめるようになってきたことと、 ある工夫によるリスク管理を取り入れていることで、 米質によるばらつきはかなり少なくなりました。 実はこの技法、 今年から「しぼりたて生酒」にも転用しています。 活性酒で培った考え方を活かしつつ、 しぼりたて用にアレンジ。 通常の造り方より少し手間はかかりますが、 「溶けない」というリスクをある程度回避できていると感じています。 おそらく、この効果だと思っています。 そして、しぼりたて生酒には、 まだまだ進化の余地があります。 余白がある、という感覚ですね。 今年の生酒から、 その兆しを感じ取ってもらえたら嬉しいです。 東京にも少量ですが活性酒を出しました。 ぜひご利用ください。 」」」」」」」」」」」」」 SNS情報 」」」」」」」」」」」」」」 ● 福司酒造 製造部(公式)Twitter: @fukutsukasa_ ● 醸し屋のInstagram : @fukutsukasa.kazuma ■五色彩雲ブランドページ URL:https://goshiki-no-kumo.com/ ■五色彩雲Noteページ URL:https://note.com/goshiki_no_kumo ![]() ■ 採用情報はコチラから 五色彩雲シリーズのお取り扱い店舗はコチラからどうぞ。 |
| 2025.12.11 |
冬の気温が、酒を変える。— 活性「純生」前夜の蔵の舞台裏
いつの間にか釧路の気温もぐっと下がり
寒いなぁって思うほどの気温になりました。 今までの季節は 仕込みで下げれるだけ下げるというやり方でしたが これからは適切な温度帯にするために その日の気温と仕込み前の醪の温度を確認し 計算をしながら仕込み準備をします 季節がより冬になると気温の低下によってさまざまな変化が起こります。 例えば井戸水の品温が下がります。 水の水温が下がると冷やす手間はなくなりますが 米が水を吸う速度が変化してきます。 吸水のコントロールは基本時間で行い その確認を重量から割り出します。 気温の変化や水温の変化に鈍感だと 時間だけで吸水の管理をしてしまい、 水を十分に吸わない状態になります。 ただ吸わなくはなるのですが その分米の品温も下がるため蒸気に触れてから 米自体の温度が上がるまでの時間も長くなり、 甑内での吸水は増加します。 そして水の品温も低いため沸騰までの時間が少しだけ変化 水と米の品温の低下から甑の中の温度の上昇が遅れ 甑の中での水分の吸水が変化します。 結果的に外側に多く、水分を含む蒸米になるため ここを考慮し吸水を減らすなどの対処が必要となってきます もちろん状況によって麹つくりの作業もやや変化。 気温が下がると乾湿差も開きやすくなるので 麹室の環境も変化していきます。 このように気温が下がるという現象で 様々な工程に変化が現れて そこに細かに対応していかなければなりません。 この微調整は各担当者がここ数日の課題というか 変化として共有してくれることで補正することができます。 近年、設備を新しくする蔵が増えています。 このような外気温に影響されないで一定の条件下で 酒つくりを行う設備は品質の安定化にもつながります。 確かに品質の安定化は1つの価値になるのですが 福司では逆に不安定なこともポジティブにとらえると 地域の環境の中で酒つくりをしており その地域でしかできない その時の環境下でしかできない酒としての価値があると思います。 いつも同じ室温や湿度を保つことでできる酒は その場所で作る価値に関しては下がってしまうのでは?と思っています ![]() 気が付けば 明日発売となった活性清酒「純生」。 今年もいろいろ工夫をして仕上げたつもりでいます。 去年、少し甘さを残したのですが 飲みやすさを考えるともう少しだけ辛さをと思い やや辛口に仕上げました。 食事と共に楽しんでもらえる酒質になったかなと思います。 飲みやすさという意味ではもう少し度数が低くてもいいのか? とも考えていますが、そこは今年の出来を見てから考えます。 クリーミーですっきり 食事に合わせやすい仕上がりといったところでしょうか 今が旬のタラの白子の天ぷらなどでご賞味ください。 個人的にはしっかり育てて微発泡くらいで飲むのがいい ついつい飲みすぎてしまうのですが クリスマスくらいの時期が最高においしくなっている という経験談です。 活性酒はほぼ釧路管内での販売なので 札幌や東京の方が釧路を訪れた際にお勧めしてみてください。 まだ活性酒も発売になっていませんが 蔵では次の新酒になる「しぼりたて生酒」の方の調整中 これも今年いろいろ奮闘していて 細かな工夫をちりばめています。 今年のしぼりたて生酒も飲みやすい酒質になる予定。 すいすい行ける!そんな生酒を福司からも出したいね!というのと 製造部の方でも将来的なことを考えて いろいろシミュレーションをしながら1ステップずつ確認作業をしているところ うまくいくと数年後にはもっといい酒質にできる・・・・はず!? 今日の挿絵もAIに書いてもらいました ブログに合う挿絵を頼んだらこんな感じに仕上がって・・・・ 色々間違えていますが・・・・そんなところも面白いなと思って載せます。 」」」」」」」」」」」」」 SNS情報 」」」」」」」」」」」」」」 ● 福司酒造 製造部(公式)Twitter: @fukutsukasa_ ● 醸し屋のInstagram : @fukutsukasa.kazuma ■五色彩雲ブランドページ URL:https://goshiki-no-kumo.com/ ■五色彩雲Noteページ URL:https://note.com/goshiki_no_kumo ![]() ■ 採用情報はコチラから 五色彩雲シリーズのお取り扱い店舗はコチラからどうぞ。 |






